大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和37年(オ)158号 判決 1964年4月21日

上告人

ふこく絹綿有限会社

右代表者代表取締役

古賀洋輔

右訴訟代理人弁護士

下尾栄

被上告人

株式会社丸吉商店

右代表者代表取締役

加藤吉郎

右訴訟代理人弁護士

山本彦助

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人下尾栄の上告理由第一点について。

民法第四七四条第二項にいう「利害ノ関係」を有する者とは、物上保証人、担保不動産の第三取得者などのように弁済をすることに法律上の利害関係を有する第三者をいうものと解するのが相当であり、控訴会社(上告会社)が訴外古賀製綿株式会社に代わり同会社の訴外米山忠義に対する原判示債務を弁済するについて法律上直接の利害関係を有した事実は認められない旨の原審の判断は、証拠関係に照らし、相当である。したがつて、原判決に所論の違法はなく、所論は、ひつきよう、右と異なつた見解に立つて原判決を攻撃するに帰するから、採用できない。

同第二点について。<省略>

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官五鬼上堅磐 石坂修一 横田正俊 柏原語六 田中二郎)

上告代理人下尾栄の上告理由

第一点 原判決は民法第四七四条第二項所定「利害の関係」の解釈を異にし法律の適用を誤つた違法がある。

原判決は訴外古賀製綿株式会社の第二会社的立場にある上告会社が、昭和三四年一月二三日、右訴外会社の債権者たる訴外米山忠義の要請によつて、右訴外会社に代り、債務金五三三、八三二円を弁済した事実を認定しながら

而して当審証人八巻清泰の第一回証言により控訴会社は古賀製綿の第二会社的立場に在ることは認められるが、右弁済について控訴会社が法律上直接の利害関係を有した点については何等の証拠もないので控訴会社は結局利害の関係を有しない第三者であると認める外なく、従つて該弁済は無効と断ぜざるを得ない。

となし、上告会社の相殺抗弁を排斥している。

そもそも、わが民法第四七四条第二項の「利害の関係を有せざる第三者は債務者の意思に反して弁済を為すことを得ず」とゆう規程そのものが、母法たる独仏諸国の法制と趣を異にしていて、わが民法のその他の規程、すなわち、債務者の意思に反しても保証をなし得ることとした第四六二条第二項及び債務者の意思に反し債権者が一方的に債務の免除をなし得る第五一九条等と首尾一貫しないものであつて、梅博士が、つとに

外国に於ては大抵反対の主義を取れりと雖も我邦に於ては所謂武士気質に因り従来の慣習上本条第二項の規則を認むるが如きを以て新民法に於ては此規則を設くることとしたり

と批判していられるところであり(民法要義巻の三、第二二九頁)、今日、学説の多くは債務者の意思に反する第三者の弁済を制限することに合理性が認められないとしているのであつて、利害関係を広く解釈することこそ民法第四七四条第二項を合理的に解釈適用する所以であるとゆうべきである。

而して、民法第四七四条第二項の「利害関係」が民法五〇〇条の法定代位をなし得る正当な利害関係より広いことは一般に承認されているけれども、具体的には殆んど例示されていず、わずかに、岡松博士が

主として財産上の関係を云ふ(例之連帯債務者、保証人等)。然れども親子夫妻の如き親族上の関係あるものも亦此中に包含するものとす(民法理由書下巻二五三頁)

と論じていられるだけであるようであるが、最近では

第三者が弁済した場合には、利害関係の存在を事実上推定し、第三者の弁済が社会的にみて不正不当な目的追求のための方便とされていることの反証がない限り、債務者の意思に反する弁済も有効である

とする学説(於保不二雄教授、債権総論―法律学全集二〇巻―三二二頁)さえ現われるに至つている。

本件記録によると訴外古賀製綿株式会社が昭和三三年一月二三日、事業の行詰りで解散すると同時に、上告会社が設立され、上告会社の代表者古賀洋輔は右訴外会社の代表者であつた古賀新吉の長男であり、従来どおりの従業員が引続き右訴外会社の店舗並に工場等設備を使用してこれと同一の絹綿製造加工販売業を営み且仕入並に販売の得意先も旧会社時代と同一で、上告会社は実質的には、訴外古賀製綿株式会社の継続であり、原判決が上告会社を目して右訴外会社の第二会社的存在と断じているとおりである。

しかも、右訴外会社の清算人となつた訴外八巻清泰は就任後半ケ年位で清算事務を抛てきして熊本市に移住し(移住前といえども、右訴外会社の回収金は殆ど自己の生活に消費し尽してその債権者に弁済せず)たので、訴外会社の債権者は上告会社に対し代仏を強要して止まないため、前記のように第二会社的立場にあつた上告会社は従来の顧客との取引を継続する必要上、これを拒むことができず、本件米山忠義に関するものを含め数百万円の代位弁済をなしたのである。

上告会社が訴外古賀製綿株式会社の第二会社的立場にあつて、本件代位弁済をした事情は前段説明のとおりであるから、上告会社は右訴外会社の債務を弁済する利害関係を有し、弁済の効力を生ずるものとゆうべく(債務者たる訴外会社の第二会社的立場にある上告会社を、岡松博士が論じていられるように、「債務者の親族」と類推して本件の弁済を有効とするか、又は、於保教授の論ぜらるるように「第三者の弁済が社会的にみて不正・不当な目的追求のための方便とされていることの反証のない限り、債務者の意思に反する弁済も有効」と解して)、原審がこれと見解を異にし上告会社は訴外古賀製綿株式会社の債務を弁済する利害関係を有しない者と断じたのは、結局、民法第四七四条第二項の適用を誤り、上告会社を敗訴せしめたもので、到底破毀を免れない。(以下省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例